インバウンドでタイ人を集客! 事例多数で万全の用意 [PR]
ナムジャイブログ

2021年03月08日

ここにパンがある

 やはりパンは中央アジアだと思った。パンを受けとり、電車に乗った。袋のなかから、優しいパンの香りが漂ってくる。我慢ができず、袋を少し破って、パンの隅を少しちぎって口に入れる。
「………」
 言葉がでなかった。これほどのパンが東京にもある。コロナ禍で海外に出ることが難しいいま、久しぶりに心が満たされた。
 買ったのは中野と新井薬師の中間ぐらいにある中央アジア料理の『ヴァタニム』という店。実は事前に、春日部にある『シルクロードベーカリーシェル』に連絡していた。春日部でつくったパンを、毎日、『ヴァタニム』に届けているという。
 ウズベキスタン、カザフスタン、アフガニスタン、パキスタン……。どこもパンがおいしい。ナンとかノンと呼ばれることが多い。
 日本から西に向かっていくと、西安あたりで中央アジアのパンに出合う。中国ではウイグル人が食べるパンだから、彼ら向けに北京や上海でも売られていると思う。しかし日常のパンとして登場してくるのは西安以西という気がする。
 あくまでも僕の感覚だが、アフリカを除く世界のパンは欧米型、東南アジア型、中央アジア型にわかれる気がする。日本人がいま食べているパンは欧米型が多い。日本人のなかに欧米志向があるからだ。東南アジア型パンは、やや甘く、菓子に近づく。主食は米というポリシーにパンは入り込めない。日本にもこの菓子に近いパンはあるが。
 中央アジアのパンは、欧米型や東南アジア型とはまったく違う世界をつくっている。とにかくパンがしっかりしている。発酵時間が短いためだといわれる。バターや牛乳とは無縁の小麦一本勝負。表面はカリッとしているが、なかはもちっとした食べ応えのある地が詰まっている。主食という存在感がある。クミンなどの香辛料の隠し味もたまらない。
 世界のなかでいちばん好きなパン……と訊かれたら、間違いなく中央アジアのパンと答える。
 嚙みしめると、口のなかにじんわりと香ばしさが広がる。どこか焼きたてのベーグルにも似ている。その味につい時間を忘れてしまい、アフガニスタンでは、バスに乗り遅れたこともあった。
 そこにあるのは、圧倒的な存在感という気がする。日本人は、米のおいしさを、「米だけでも満足できる」ということがあるが、それに近いものが中央アジアのパンにはあると思う。
 翌朝も中央アジアのパンをトースターで少し温めて食べた。「ここにパンがある」とでも主張しているかのような味と歯ごたえに、コロナ禍の憂鬱が消えていく。




■YouTubeチャンネルをつくりました。「下川裕治のアジアチャンネル」。
https://www.youtube.com/channel/UCgFhlkMPLhuTJHjpgudQphg?view_as=public
観てみてください。面白そうだったらチャンネル登録を。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=芭蕉の「奥の細道」を辿る旅を連載中。
○旅をせんとやうまれけむ=つい立ち止まってしまうアジアのいまを。
○アジアは今日も薄曇り=沖縄の離島のバス旅シリーズを連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
■ツイッターは@Shimokawa_Yuji


Posted by 下川裕治 at 13:19│Comments(1)
この記事へのコメント
最近若い人が世界各国を旅して凄いですね。行動力は尊敬するものの、やはり考えが子供っぽいです。下川さんのような重鎮が今こそ必要です。住んでみる企画は良かったですね。
Posted by 12万円10回以上読んだ at 2021年03月08日 15:06
※このブログではブログの持ち主が承認した後、コメントが反映される設定です。
上の画像に書かれている文字を入力して下さい
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。