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ナムジャイブログ

2013年03月18日

中洲でじゃんけんの時代

 九州に行ってきた。ある雑誌から、総費用1万円の旅という企画の依頼を受けた。安いLCCに乗り、九州内はバスや各駅停車で移動していく。当然、日帰りである。
 最後は博多だった。なんとか行程を終え、空港に向かうまで、中洲の公園にいた。橋の欄干に身を預けながら那珂川を眺めていた。
 20年以上前、やはりこうして那珂川を眺めていたような記憶がある。当時、僕は週刊朝日のデキゴトロジーというコーナーを担当していた。
「中洲のクラブに、じゃんけんでは絶対に負けないママがいる」
 そんな情報が寄せられた。デスクの、「面白い」のひと言で、博多に飛んだ。することは、ママとじゃんけんをするだけである。
 ママは確かに強かった。5回じゃんけんをして勝ち負けを決めるルールだった記憶がある。1回か2回、勝つことはあったが、5回戦ではことごとく負けた。何回やって勝てなかった。
 その晩は博多に泊まった。ベッドに横になり、じゃんけんのシーンを思い浮かべる。ママは僕のなにを見ていたのだろう。どこかの瞬間、僕の癖を見抜いたのだろうか。答はみつかりそうもなかった。
 バブリーな時代だった。飛行機代と宿泊代で10万円以上はかかった気がする。当時、国内線の飛行機は安くはなかった。そのクラブの壁には、東京からの搭乗券の半券がぎっしりと貼られていた。九州出張に飛行機を使うことはステイタスでもあった。
 今回の取材は、博多ラーメンのルーツを探るというテーマがあった。その資料のひとつに、玉村豊男が書いた『食の地平線』という本があった。彼は長崎ちゃんぽんのナルトにこだわり、九州や四国を歩いている。当時、冷やし中華にナルトを載せるか、載せないかという論争があった記憶がある。ナルトを載せることを支持する人たちは、ナルト学派と呼ばれた。
 そんなサブカルチャー的な話題がもてはやされた時代でもあった。やはりバブルの時代だった気がする。いまの日本人に、ナルトをめぐって論争する余裕があるだろうか。
 時代はめぐったらしい。航空券のデフレの波は止まらず、九州往復が1万円を切るようになってきた。出張にLCCを使うサラリーマンも増えてきた。それぞれの興味で日本を旅するシニアも増えている。
 しかし意識はもう戻ることはない。いまの日本人は、じゃんけんが強いママやナルトにこだわる人たちを面白がることができるのだろうか。それなりに笑うのかもしれないが、その瞳のなかに、「だからなんなの?」という醒めた部分が横たわっている気がする。社会の活力を左右するものは、笑いの奥に潜んでいるもののようにも思う。


Posted by 下川裕治 at 12:50│Comments(0)
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