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ナムジャイブログ

2019年08月13日

イミグレーションのマリオ

 本を発刊するとき、僕には、ひとつの難関がある。「あとがき」である。1冊の本の原稿を書きあげる。それが活字になり、そのチェックが続く。初校、再校、念校……。同じ原稿を何回か読むことになる。たいたい、初校のチェックが終わったタイミングで「あとがき」を書くことになる。
「あとがき」の枚数は多くない。ページ調整があるので、一概にはいえないが、400字詰めの原稿用紙で5枚ぐらいになることが多い。本体の原稿は400字詰めで250枚を超えるから、それに比べればかなり短い。
 これが書けない。ときには2日ぐらい悩み続ける。ひとつの「あとがき」を書き、これじゃないなぁと呟き、また別のものを書く。初校のチェックをする頃は、日程もタイトになっているから、よけいにプレッシャーがかかる。「あとがき」をすいすい書くことができる人がいたら、そのコツを教えてもらいたいぐらいだ。
『新版「生きづらい日本人」を捨てる』(光文社知恵の森文庫)が発売になった。この本の「あとがき」は、時間がかからないほうだった。バンコクの空港のイミグレーションが思い浮かんだからだ。
 正式な労働ビザなどがなく、タイに長く滞在しようとする人にとって、タイのイミグレーションは緊張の場である。そこで捺されたスタンプで滞在期間が決められるからだ。
 しかしある人たちにとって、タイのイミグレーションは、急に体を大きくしてくれるポイントでもあった。「外こもり」の人たちである。「外こもり」というのは、日本で一定期間、集中的に働き、それを資金にして、アジアで暮らす人たちである。とくにタイに多かった。日本の経済環境が変わり、タイの物価があがり、いまは難しくなってきてしまったが、10年ほど前までは100人単位で、カオサンあたりで「外こもり生活」を実行している人たちがいた。
「外こもり」組は、引きこもりの因子をもっている。日本では認められなかった。自信のない日々。しかしタイのイミグレーションを通過したとたん、足どりが確かになる。マリオがモニターのなかで大きくなるように。
 タイの人々が特別に優しいわけではなかった。「外こもり」ということを知らなかっただけだ。だから普通に接してくれる。彼らはタイのいる間だけ、普通の日本人になることができた。
「あとがき」を書くとき、このイメージが膨らんだのは、日本で長く引きこもっていた人たちが起こす事件が続いていたからだ。引きこもりと「外こもり」の違いを考えていたとき、タイのイミグレーションが脳裏に浮かんできた。
 いつもこんなふうに「あとがき」が書けたら……。読み返しながら思っている。

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Posted by 下川裕治 at 12:14│Comments(0)
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