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ナムジャイブログ

2022年06月21日

蚊が舞い込んでくる家

 重たい雨が降りつづいている。前日の昼頃に降りはじめた雨がまだやまない。大きな雨粒が波のように街に降りかかる。
 バングラデシュのコックスバザール。3年ぶりである。新型コロナウイルスの感染が収まりつつあるなかで、ようやくバングラデシュ政府は外国人への扉を開けてくれた。
 この街にきて4日目になる。ほとんど雨のなかの日々だ。雨季のバングラデシュははじめてではないが、さすがに気が重くなる。
 2日前、世話になっているいる家の奥さんに洗濯を頼んだ。それがまだ乾かない。おそらく湿度は100パーセント近くになっている気がする。
 今日、ミャンマー国境の村にいってきた。4年前、この村に1週間滞在した。バングラデシュの村で暮らすという企画だった。竹で編んだ小屋のような家で暮らした。
 この一帯は、ミャンマーからのロヒンギャ難民のキャンプが集まっている。昨日聞いたところでは、最も大きいクトゥパロンのキャンプには、150万人近い難民が収容されているという。世界最大の難民キャンプだが、それはもうひとつの街である。人口100万人レベル……。それは中規模の街である。
 そんな関係から家探しは難航した。軍や警察の目が怖く、外国人に家を貸すことを多くの人がためらった。
 そのなかでひとり、チョーバージンさんというラカイン人が手を挙げてくれた。助かった。彼の村の家を探してきてくれたのだ。
 ミャンマー国境の村である。脇を流れる川の対岸はミャンマーだった。軍の管理は厳しいはずだった。知人とはいえ、彼の好意がありがたかった。
 しかし彼は昨年末に亡くなってしまった。黄疸だったという。60歳だった。ソフトシェルの養殖を手がけ、元気に働いていた。
 今日、彼の家を訪ねた。彼には3人の娘さんがいた。長女が日本に留学する話を進めていたが、新型コロナウイルスは彼女の夢を吹き飛ばしてしまった。そして彼の死。
 彼の家は静まり返っていた。出てきたのはいちばん下の娘さんだった。高校生だ。最後の試験が残っているが、雨で延期になっているといった。
 奥さんが出てきた。僕の顔を見たとたん、急に泣きはじめてしまった。夫の死から6ヵ月。悲しみの淵のなかにまだいた。話はほとんどできなかった。
 こんなにも落ち込むラカイン人を見たのははじめてだった。バングラデシュ南部には、少数仏教徒のラカイン族が暮らしている。ミャンマー系の人たちだ。チョーバーシンさん一家はラカイン人の家族だった。
 家のなかは暗く、なにもいえずに座っていると、何ヵ所か蚊に刺された。南国の害虫は体力が弱ってくると集まってくる。それは家にもいえるのかもしれなかった。にぎわいが消えた家に蚊が舞い込んでくる。
 家から出るとまだ重い雨が降りつづいていた。

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Posted by 下川裕治 at 09:38│Comments(0)
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