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ナムジャイブログ

2011年04月18日

人が眠る海

 以前、プーケットを津波が襲った後、魚を食べないタイ人が何人かいた。
「なんとなく気持ちが悪い」
 海には津波の犠牲者が沈んでいる。その死体を魚が食べている……。そんな想像力が働いてしまうのだという。
 津波の後、料金が大幅に割り引かれたこともあり、多くの欧米人がプーケットを訪ねた。これが復興につながったが、そのときも、海で遊ぶ欧米人を、タイ人は異星人のようにも眺めていたという。あの海によく入ることができる……と。
 先日、バングラデシュ人と津波の話をしていた。彼らもそういう話を聞いたことがあるといった。インドには津波の後の海に入ると、「引っ張られる」という伝承もあるのだという。
 人類はこれまで、何回となく津波の被害に遭ってきた。科学が進んでも、津波という巨大なエネルギーの前ではひとたまりもない。
 世界各地に残る海の伝説のなかには、実際には津波がベースになっているものも少なくないといわれている。
「海に引っ張られる」という話は、なにも津波だけから生まれるわけではない。戦争に起因した話もある。
 沖縄本島の南部海岸の海には、太平洋戦争の犠牲者が多く眠っている。玉砕の海岸でもあった。いまはビーチなどもつくられているが、そこで遊ぶ人々を、やはり異星人のように眺める沖縄の老人がいるという。彼らにとっては、怖い海なのだ。
 日本人には、東北を襲った津波の後、その海の魚を口にすることを拒む人がいるのだろうか。放射能に汚染された魚の話ばかりが話題になってしまうが、肉親の命を奪ってしまった海を素直に受け入れられない人もいるような気がする。
 美しさをとり戻した東北の海がある。被災者の人々は、そんな海をどう眺めるのだろうかとも思う。
 今回の震災の切なさは、そんな人間的な命と自然の関わりの世界を、原発というものが踏みにじってしまったことだ。人は科学というもので解決できないものを内包している。その感性の世界をヨウ素とかセシウム、冷却、汚染水……といった単語が席巻してしまっている。
 日本人は東南アジアの人々に比べたら、少しだけ科学というものを信奉する度合いが強い気がする。日本人の精神構造をつくりあげたなかで、朱子学の影響が強いからでは……という説もある。だから原発というものにも、冷静に対応しようとする。
 しかし今回の地震と津波で、そういった文脈を超える自然のエネルギーを目の当たりにしてしまった。その世界と原発は相容れない要素をもっている。その折り合いをどうつけるのだろうか。


Posted by 下川裕治 at 13:09│Comments(1)
この記事へのコメント
私は、この震災をバネにして日本が目を覚ますのではないかと期待していました。ところが、震災後に日本国民が取った態度を見るとやはり震災前と全く何も変わっていないのです。政治的には批判的で、それなのに大きな意味では現状維持、震災後にとった世界には異常に映る行動を美化して、やっぱり日本人は凄いみたいなことを言ったりしています。1ヶ月も経っているのにニュースの殆どはまだ震災関連。そこには全く前進というものがないのです。

この震災で、私はこの国から心のチェックアウトが終わりました。
Posted by Siam at 2011年04月23日 14:32
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