2013年05月13日
猫村という不思議空間
台湾の猫村を訪ねてみた。台北からそれほど遠くない。列車で瑞芳まで行き、そこで平渓線に乗り換えて、ひと駅めにある。
列車を降りると、もうそこに猫がいる。改札口には、駅に住んでいる6匹の猫が紹介されている。村に行くには、線路の上の跨線橋を渡るのだが、そこにも猫の看板やイラストがべたべたと貼られている。
村には100軒ほどの家があるという。そこに約90匹から100匹の猫がいる。飼い猫もいれば、野良猫もいる。
やってくるのは、若い女性が多い。仕事に疲れたのだろうか。癒しを求めてやってくるのだろう。彼女らは、猫の写真を撮り、カフェでのんびりとすごす。
この村にはかつて炭鉱があった。日本時代に開発されたものだ。最盛期には6000人を超える人たちが住んでいたという。しかし、化石燃料が石油に移っていくなかで閉山。暇になった炭鉱労働者が、猫を飼いはじめたことがきっかけだというのだが。
村を歩いてみた。そこかしこに猫がいる。塀の上で寝ている猫も多い。
「このだるさってなんなんだろう」
僕はしきりに首を傾げていた。
村を歩く観光客の表情もいまひとつといった感じだった。
ホームに降りたとき、そこに猫がいる。
「キャー、もう猫がいる」
観光客のテンションは、そこで一気に登り詰めるのだが、あたり前のように猫が道に寝そべるなかを歩いていると、高揚感がどんどん落ちてくるのだ。
猫は猫である。観光客に媚びるようなところはない。ただそこにいるだけなのだ。猫に飽きるという感覚でもない。ただ寝そべる猫の世界に、意識が引きづられていく。
一軒のカフェに入ってみた。このカフェも5匹の猫を飼っていた。2、3匹がいつも店内にいる。
建物のなかにいる猫はしっくりとくる。やはり猫という動物は、人に寄り添うように家にいることが似合うのだろう。そういうペットであることがよくわかる。
しかし村の道に寝そべる猫たちは、なにかが違う。野生動物の鋭さもなければ、家で人になつくような愛玩性もない。それを眺める観光客は、ただぼんやりしてしまうのだ。
人間にとっての猫は、その居場所があるのだろう。それを村という規模に広げると、なにか収まりが悪くなる。
その責任は猫にはない。
寂れた元炭鉱村は、猫で村おこしを狙っているようだ。それは成功している。毎日猫の数より多い人が訪れる。しかし帰るときは、テンションがさがり、ぽそっとした顔で列車に乗り込んでくる。
猫村──。不思議な空間である。
(お知らせ)
朝日新聞のサイト「どらく」連載のクリックディープ旅が移転しました。「アジアの日本人町歩きの旅」。1回目は韓国にもあった日本人町(前編) です。アクセスは以下。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html
列車を降りると、もうそこに猫がいる。改札口には、駅に住んでいる6匹の猫が紹介されている。村に行くには、線路の上の跨線橋を渡るのだが、そこにも猫の看板やイラストがべたべたと貼られている。
村には100軒ほどの家があるという。そこに約90匹から100匹の猫がいる。飼い猫もいれば、野良猫もいる。
やってくるのは、若い女性が多い。仕事に疲れたのだろうか。癒しを求めてやってくるのだろう。彼女らは、猫の写真を撮り、カフェでのんびりとすごす。
この村にはかつて炭鉱があった。日本時代に開発されたものだ。最盛期には6000人を超える人たちが住んでいたという。しかし、化石燃料が石油に移っていくなかで閉山。暇になった炭鉱労働者が、猫を飼いはじめたことがきっかけだというのだが。
村を歩いてみた。そこかしこに猫がいる。塀の上で寝ている猫も多い。
「このだるさってなんなんだろう」
僕はしきりに首を傾げていた。
村を歩く観光客の表情もいまひとつといった感じだった。
ホームに降りたとき、そこに猫がいる。
「キャー、もう猫がいる」
観光客のテンションは、そこで一気に登り詰めるのだが、あたり前のように猫が道に寝そべるなかを歩いていると、高揚感がどんどん落ちてくるのだ。
猫は猫である。観光客に媚びるようなところはない。ただそこにいるだけなのだ。猫に飽きるという感覚でもない。ただ寝そべる猫の世界に、意識が引きづられていく。
一軒のカフェに入ってみた。このカフェも5匹の猫を飼っていた。2、3匹がいつも店内にいる。
建物のなかにいる猫はしっくりとくる。やはり猫という動物は、人に寄り添うように家にいることが似合うのだろう。そういうペットであることがよくわかる。
しかし村の道に寝そべる猫たちは、なにかが違う。野生動物の鋭さもなければ、家で人になつくような愛玩性もない。それを眺める観光客は、ただぼんやりしてしまうのだ。
人間にとっての猫は、その居場所があるのだろう。それを村という規模に広げると、なにか収まりが悪くなる。
その責任は猫にはない。
寂れた元炭鉱村は、猫で村おこしを狙っているようだ。それは成功している。毎日猫の数より多い人が訪れる。しかし帰るときは、テンションがさがり、ぽそっとした顔で列車に乗り込んでくる。
猫村──。不思議な空間である。
(お知らせ)
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Posted by 下川裕治 at 12:00│Comments(0)
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