2013年12月09日
路線バスがクラブという不安
【2013年11月04日号から、通常のブログはしばらく休載。『裏国境を越えて東南アジア大周遊編』を連載します】
【前号まで】
裏国境を越えてアジアを大周遊。スタートはバンコク。タイのスリンからカンボジアに入国し、メコン川を下ってチャドックでベトナムに入国。ホーチミンシティにバスは着いた。
※ ※
ホーチミンシティ。バンコク以来、6日ぶりの都会だった。この街で僕は路線バスに乗りまくっていた。
最近、思うのだが、ホーチミンシティは路線バスで移動できる街に変わりつつある。たとえば空港から市内。かつてはタクシーが唯一の足のようにいわれていた。ぼらないタクシーを選ぶ技も必要だった。
しかし最近、僕は路線バスに乗る。運賃は5000ドン、約25円。10万ドンを超えるタクシー代に比べると、小躍りするほど安い。バスの終点はベンタン市場。ゲストハウスがひしめくデタム通り界隈も遠くない。
バスの最前席に座ろうものなら、冷や汗が止まらない。信号で停車すると、バスの前には100台以上のバイクが入りこんでくる。ホーチミンシティのバイクは、ミズスマシのように路上を動きまわる。バスすれすれで横切ったりする。それをかわしながら、バスは進む。それでも40分ほどでベンタン市場に着いてしまうのだから、そのテクニックはかなりのレベルだ。
19番のバスに乗って、サイゴン川の対岸まで行ってみることにした。終点までの距離が長いのか、運賃は6000ドンだった。バスは川を越え、下町を走り、国道1号線に出てもまだ走り続けた。1時間ほど乗った。郊外のテーマパークの前で降りた。
日は沈みかけていた。テーマパークも終わっていた。道を渡り、市街に戻る19番のバスに乗った。
それから30分……。バスは郊外の工場勤務から帰る人たちで埋まっていた。と、車内に灯りがともった。前の席に座るカメラマンの顔を見た。
「なんですか、これ」
「7色ですね」
車内の電灯が、まるでクラブのように7色に点滅するのだった。すると突然、車内に大音響が響きはじめた。ロックだった。ロシア語の曲で、低音がずんずんと下腹に響く。かなりいいスピーカーを搭載しているようだった。
いや、そういうことではなかった。これは路線バスなのである。バスはバス停にきちんと停まり、客の乗り降りがある。ごく普通の路線バスなのだ。乗客が席に座ると、車掌が切符を手にやってくる。
しかし車内は完全にクラブなのだ。
乗客は戸惑う様子も見せなかった。かといって踊りはじめる人もいない。窓の外には、帰宅を急ぐバイクがひしめいている。
しかし車内にはライトの点滅に合わせるようにロックが鳴り響いている。
こんなことをしていていいのだろうか。
ホーチミンシティの路線バスの今後が、少し不安になった。
(以下次号)
(写真やルートはこちら)
この旅の写真や動画は、以下をクリック。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html。
「裏国境を越えて東南アジア大周遊」を。こちらは2週間に1度の更新です。バス車内の動画は、音があまりに大きいため、3分の1程度に音量を絞ってあります。
【前号まで】
裏国境を越えてアジアを大周遊。スタートはバンコク。タイのスリンからカンボジアに入国し、メコン川を下ってチャドックでベトナムに入国。ホーチミンシティにバスは着いた。
※ ※
ホーチミンシティ。バンコク以来、6日ぶりの都会だった。この街で僕は路線バスに乗りまくっていた。
最近、思うのだが、ホーチミンシティは路線バスで移動できる街に変わりつつある。たとえば空港から市内。かつてはタクシーが唯一の足のようにいわれていた。ぼらないタクシーを選ぶ技も必要だった。
しかし最近、僕は路線バスに乗る。運賃は5000ドン、約25円。10万ドンを超えるタクシー代に比べると、小躍りするほど安い。バスの終点はベンタン市場。ゲストハウスがひしめくデタム通り界隈も遠くない。
バスの最前席に座ろうものなら、冷や汗が止まらない。信号で停車すると、バスの前には100台以上のバイクが入りこんでくる。ホーチミンシティのバイクは、ミズスマシのように路上を動きまわる。バスすれすれで横切ったりする。それをかわしながら、バスは進む。それでも40分ほどでベンタン市場に着いてしまうのだから、そのテクニックはかなりのレベルだ。
19番のバスに乗って、サイゴン川の対岸まで行ってみることにした。終点までの距離が長いのか、運賃は6000ドンだった。バスは川を越え、下町を走り、国道1号線に出てもまだ走り続けた。1時間ほど乗った。郊外のテーマパークの前で降りた。
日は沈みかけていた。テーマパークも終わっていた。道を渡り、市街に戻る19番のバスに乗った。
それから30分……。バスは郊外の工場勤務から帰る人たちで埋まっていた。と、車内に灯りがともった。前の席に座るカメラマンの顔を見た。
「なんですか、これ」
「7色ですね」
車内の電灯が、まるでクラブのように7色に点滅するのだった。すると突然、車内に大音響が響きはじめた。ロックだった。ロシア語の曲で、低音がずんずんと下腹に響く。かなりいいスピーカーを搭載しているようだった。
いや、そういうことではなかった。これは路線バスなのである。バスはバス停にきちんと停まり、客の乗り降りがある。ごく普通の路線バスなのだ。乗客が席に座ると、車掌が切符を手にやってくる。
しかし車内は完全にクラブなのだ。
乗客は戸惑う様子も見せなかった。かといって踊りはじめる人もいない。窓の外には、帰宅を急ぐバイクがひしめいている。
しかし車内にはライトの点滅に合わせるようにロックが鳴り響いている。
こんなことをしていていいのだろうか。
ホーチミンシティの路線バスの今後が、少し不安になった。
(以下次号)
(写真やルートはこちら)
この旅の写真や動画は、以下をクリック。
http://www.asahi.com/and_M/clickdeep_list.html。
「裏国境を越えて東南アジア大周遊」を。こちらは2週間に1度の更新です。バス車内の動画は、音があまりに大きいため、3分の1程度に音量を絞ってあります。
Posted by 下川裕治 at 11:50│Comments(0)
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