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ナムジャイブログ

2015年10月13日

本が読めない

 ある新聞社から、本棚についての取材を受けた。僕の家にある本棚……つまりはどんな本が並んでいるのかということになる。
 そのインタビューを受けながら、苛立たしさが募った。記者に対してではない。僕自身に向かって。
 最近、本が読めない。いや、読んではいるのだが、本を読むという楽しみがない。原稿を書く仕事に追われている。読むのは資料としての本である。ときに書評も依頼される。読まなくては原稿も書けない。週に1~2冊の本が送られてくる。知人や出版社からだ。やはり読まなくてはいけないと思う。
 昔に比べ、本を読む量が減っているわけではない。読みたい本を読んでいないのだ。
 なんとかしなくては……。
 先日、信州の実家に帰った。80歳を越える母がひとりで暮らしている。実家は安曇野にある。高尾駅から各駅停車に乗った。
 安曇野に行くときは、まず松本に向かう。東京から松本までは「あずさ」や高速バス、そして各駅停車の列車がある。各駅停車は5時間ぐらいかかるが、本が読める。運賃も安い。それにバスのように渋滞で遅れることがない。
 特急や新幹線に比べると遅いから本が読みやすい。老眼が進んでいるせいか、高速の列車のなかで本を読むと疲れてしまう。
 しかし、高尾駅のホームに入線する列車を目にして、愕然とした。ボックス席型ではなく、通勤電車のようなロングシートなのだ。この座席では本が読みにくい。
 僕はしばしば飛行機に乗る。機内で本を読もうとするのだが、最近はシートテレビというものがついている機材が多い。映画の誘惑に負けてしまうのだ。LCCはその点優れているのだが、長距離路線の運賃がやけに高い。既存の航空会社のほうが安いことが多い。しかし既存の航空会社は映画がある。
「快適でスピーディな乗り物って、読書に向いていない」
 そうもいえない。本というものは、本当に読みたいなら、どんな環境でも読むものだ。
「いま、どんな本が読みたいですか」
 記者が口を開いた。
「そうですね。まず、昆虫や動物の本。昔、よく寝る前に読んだんです。ファーブル昆虫記は愛読書でした」
 そう答えながら唇が寂しい。毎夜、原稿を書くのに疲れ、倒れるように寝てしまっている。本を書く人間が本を読めない。
 なんとかしなくては……。



Posted by 下川裕治 at 12:47│Comments(2)
この記事へのコメント
ご無理をなさらず…と思いながら、それでも下川さんの著書を心待ちにしてしまう矛盾に戸惑う読者です。
昨日までの那覇旅行にも「週末沖縄でちょっとゆるり」を始め、数冊持っていきました。
最近は電子書籍が流行りのようですが、やはり私は「本」が好きです。
ところで電車の座席ですが、座り心地だけで言えば、ロングシートの方が楽ではありませんか?
ボックスシートは直角の背もたれが多いイメージで、個人的には少し苦手なのです。
Posted by たぬきまるようこ at 2015年10月16日 01:04
僕たち読者は下川さんのお陰で本を読む楽しみが増えまた。
ありがとうございます。

しかし当の本人、下川さんは好きな本が読めずにいる。
なんということでしょう。。。

作家と言う仕事はいろいろなものを犠牲にして成り立つ仕事なのですね。

特に旅をテーマにしている下川さんは
犠牲が多すぎますよね。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2015年10月16日 02:33
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