2016年06月20日
極楽とんぼのツケ?
62歳になった。嬉しくもないが、悲しくもない。毎年、誕生日はバンコクにいる。タイで製作している『歩くバンコク』というガイドの内容をチェックする仕事が、ちょうど誕生日にあたってしまうからだ。
しかし今年は、誕生日から1週間後、1冊の本が発行された。『ユーラシア縦断鉄道旅行』という本である。ユーラシア大陸の最南端であるシンガポールから、最北端の鉄道駅になるムルマンスクまでの紀行である。長い取材を重ねた本だ。このブログにも、何回か登場している。これが誕生日のお祝い?
しかし、その本の帯に、こう書かれている。
「62歳のバックパッカー、1万8755キロを行く」
できあがった本の表紙を眺めながら、やはり呟いてしまう。
「もう62歳か……」
読者の方々は「62歳のバックパッカー」という表現にどう反応するのだろうか。
体は年相応にトラブルを抱えている。不整脈を患っている。自覚症状はないが、毎日、何種類かの薬を飲んでいる。2ヵ月に1度、検診を受けている。さまざまな器官も62年働いてきたわけで、疲労はしっかりと蓄積されているのだろう。血管の劣化ははじまっているし、体の奥底ではガン細胞がうごめいているのかもしれない。
しかし人々は僕の本を読んでくれる。ありがたいことだ。その期待を胸に、旅に出る。年をとるにつれ、その旅の距離は長くなってきているように思う。読者はありがたいが、ときに冷酷にも映ってしまう。旅の距離が長いほど、面白いと反応してくれる。調子に乗って、体のことなどなにも考えずに、また酔狂な旅に出てしまう。
いや、僕には自信がないのだ。短い旅をまとめた本では、読者は納得してくれないという思いのなかにいる。
かくして、本を発行するまでの効率はどんどん悪くなっていく。
「下川さん、それは普通の人の逆をいっているようなもんじゃないですか。60歳を過ぎればそれなりの経験があるわけですし、体力も落ちてくる。楽をする人生っていうのが一般的な……」
僕もそう思う。高校や大学で同期だった知人たちは、もう少し余裕があるように映る。それなりに大変らしいが、地位もあるから、徹夜に近い仕事などしない。引退した知人たちは、暇だと愚痴を繰り返すが、好きなことに没頭している人も多く、1万8755キロも列車に乗りはしない。
年を重ねるごとに、仕事が過酷になっていく。それが、若い頃、極楽とんぼのように海外を歩いていたツケ?
そうなのかもしれない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅。そろそろ最終回です。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまはタイ南部をうろうろしてます。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
しかし今年は、誕生日から1週間後、1冊の本が発行された。『ユーラシア縦断鉄道旅行』という本である。ユーラシア大陸の最南端であるシンガポールから、最北端の鉄道駅になるムルマンスクまでの紀行である。長い取材を重ねた本だ。このブログにも、何回か登場している。これが誕生日のお祝い?
しかし、その本の帯に、こう書かれている。
「62歳のバックパッカー、1万8755キロを行く」
できあがった本の表紙を眺めながら、やはり呟いてしまう。
「もう62歳か……」
読者の方々は「62歳のバックパッカー」という表現にどう反応するのだろうか。
体は年相応にトラブルを抱えている。不整脈を患っている。自覚症状はないが、毎日、何種類かの薬を飲んでいる。2ヵ月に1度、検診を受けている。さまざまな器官も62年働いてきたわけで、疲労はしっかりと蓄積されているのだろう。血管の劣化ははじまっているし、体の奥底ではガン細胞がうごめいているのかもしれない。
しかし人々は僕の本を読んでくれる。ありがたいことだ。その期待を胸に、旅に出る。年をとるにつれ、その旅の距離は長くなってきているように思う。読者はありがたいが、ときに冷酷にも映ってしまう。旅の距離が長いほど、面白いと反応してくれる。調子に乗って、体のことなどなにも考えずに、また酔狂な旅に出てしまう。
いや、僕には自信がないのだ。短い旅をまとめた本では、読者は納得してくれないという思いのなかにいる。
かくして、本を発行するまでの効率はどんどん悪くなっていく。
「下川さん、それは普通の人の逆をいっているようなもんじゃないですか。60歳を過ぎればそれなりの経験があるわけですし、体力も落ちてくる。楽をする人生っていうのが一般的な……」
僕もそう思う。高校や大学で同期だった知人たちは、もう少し余裕があるように映る。それなりに大変らしいが、地位もあるから、徹夜に近い仕事などしない。引退した知人たちは、暇だと愚痴を繰り返すが、好きなことに没頭している人も多く、1万8755キロも列車に乗りはしない。
年を重ねるごとに、仕事が過酷になっていく。それが、若い頃、極楽とんぼのように海外を歩いていたツケ?
そうなのかもしれない。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅。そろそろ最終回です。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまはタイ南部をうろうろしてます。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at 12:26│Comments(3)
この記事へのコメント
読者は、自分では時間の都合でできない旅を本を読んで疑似体験したいんでしょうね。
Posted by やかんくん at 2016年06月26日 23:15
読者です。
旅の距離の長さは
自身にとって全く関係ありません。
旅の距離の長さは
自身にとって全く関係ありません。
Posted by ぶたふらみんご at 2016年06月27日 00:56
下川さんの旅のお陰で楽しい夢を見ることができます。
でもまた小説も読みたいです。
オカマのプーさん
のような・・・
もっともっと小説も書いてほしいです。
短編でもいいので~
でもまた小説も読みたいです。
オカマのプーさん
のような・・・
もっともっと小説も書いてほしいです。
短編でもいいので~
Posted by たぬきまるだいすけ at 2016年06月27日 02:22
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