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ナムジャイブログ

2016年08月22日

笑いをとる力量と勇気

 渥美清の没後20年。テレビでも、『男はつらいよ』を目にする機会が多い。先日、国際線の飛行機のなかでもでも観てしまった。
 観てしまった……というのは、理由がある。おそらく僕は、『男はつらいよ』をすべて観ていて、あえて観なくてもいいとは思うのだが、やはり観てしまうのだ。
 高校を卒業した僕は、京都で1年間、予備校に通った。京都という街に憧れはあったのだが、1年暮らしてみると、この街が抱える古さが陰湿なものに映り、結局は東京の大学に進んでしまった。
 京都で浪人時代をすごしていたとき、『男はつらよ』のファンクラブに入った。僕にとっては最初で最後のファンクラブだった。入会金もわずかだったが、とりたてメリットもないファンクラブだった記憶がある。送られてきた会員証が、ちょっと嬉しかったが。
 当時からこの映画が好きだった。そしていまでも観てしまうのは、やはり予定調和の妙のように思う。
 たとえば、柴又のだんご屋「くるまや」に寅さんが現れるシーンがある。この店ははじめ「とらや」だったのだが、途中から「くるまや」になった。
 映画のなかでは、必ず、寅さんの登場を予感させる伏線がある。おじちゃん、おばちゃん、さくららが、寅さんの話題に触れる。観客に、次のシーンで寅さんが登場することを予感させるのだ。そして、寅さんが姿を現して、どっと笑いをとるわけだ。
 何回となく映画を観たファンになると、どういう形で寅さんが登場するかも覚えてしまっている。こうなると、おじちゃんやさくらが、寅さんの話題を口にした時点でもう笑いはじめてしまう。究極の予定調和といってもいい。
 いつもプロの技だと思う。シリーズ作品を手にした監督の特権といってもいい。
 予定調和とマンネリの境界は難しい。ある人は、「また同じじゃないか」と苦言を口にするというのに、ある人は同じだから笑ってしまうのだ。このあたりの妙……。それがうまさだろうか。
 物書きだから、そのあたりが気になる。ときに、予定調和を仕かけてみるときがある。別の本で同じようなシーンを書いていた。それとその同じシーンを描く。その本を読んでくれた人ならきっと頷いてくれるはず……と。
 ところがあるとき、「同じ話を書いているじゃないですか」とひとりの読者からいわれたことがあった。こうなると、マンネリ化の領域に入っていってしまう。
 やはり筆力がないのだろうか。
 いまでも、『男はつらいよ』を観て、僕は笑う。そしていまも、予定調和をみごとに笑いに代える監督や役者の力量と勇気に言葉を失っている。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=シンガポールからマレーシアの旅。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。ようやくタイの鉄道を完乗? マレーシアの鉄道の完乗紀行。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 11:57│Comments(2)
この記事へのコメント
はじめまして。

予定調和 マンネリ 毎回 同じ。それは 見る人 読む人の気持ち ですよ。僕は 男はつらいよを見ても 面白くない です。毎回 同じような話だから。下川さんの毎回同じような貧乏旅行の話を読んでて、20年前も今も面白いのは 下川さんが好きだから。ここで 下川流の笑いを入れて また昔話が始まった・・飽きないし また 文庫本買って読みたくなる・・ 体に気をつけて 貧乏旅行・・低コスト旅行を続けて下さい。


でもまぁ 普通の旅行をしても お互いケチくさい旅行になってしまう体質になってる、と思いますが。
Posted by   at 2016年08月23日 15:36
男はつらいよ
僕は帝釈天で竹ぼうきで掃除している蛾次郎が印象的です。

タコ社長とのけんか
寅さんの失恋

僕が子供の頃にみた寅さんはそんなボンヤリしたものですがどれも印象的です。
TVで放送しているとつい見ちゃうそんな微妙な魅力が有ります。

僕、下川さんファンとしては
同じ話が出てきても何故か安心するのです。
それが予定調和というモノでしょうか?
居酒屋でいつも同じ話をする
先輩のような親しみがそこにはあるのです。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2016年08月27日 02:39
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