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ナムジャイブログ

2017年04月17日

苦味で「生き返った」

 苦いものが好きだ。子供の頃から好きだった。ひねくれた子供だった気もするが、そういう性格とは関係なく、苦い味というものが好きだった。
 こういう味覚をもっていると、春はうれしい季節だ。春野菜は苦いものが多い。「ふきのとう」は好物のひとつだ。味噌を加えて炒めてもいいし、てんぷらも苦味が口のなかに広がる瞬間がいい。「せり」のおひたしにも箸が動く。
 春野菜の苦味は瑞々しく、控えめでもある。夏のゴーヤーなどにくらべると自己主張は弱いが、どこか救われるような風味がある。
「生き返ったね」
 カンボジアで暮らす老人がそういったことを思いだした。その老夫婦は、カンボジアの田舎に暮らしていた。その家に何回も泊めてもらった。
 なにかお礼を買おう……と、カンボジアに向かう前に、バンコクの日系スーパーに寄った。魚売り場に、日本から送られてきた鮎が並んでいた。かなり高かったが、喜んでくれそうな気がした。老人は新潟の出身だった。
 老人の家は、メコン川に近い湖に面していた。そこで鮎を食べた。そのとき、耳にした言葉だった。
 鮎のワタは苦い。
 生き返った……それは苦さの効果だったような気がする。アジアの料理は、苦味がないものが多い。そんな日々の食事のなかで、鮎の苦味は、どこか体をシャキッとさせる要素をもっている。
 その感覚がよくわかる。「ふきのとう」を噛んだとき、口に広がる苦味は、生き返る味でもある。苦味は、日本人の味覚を構成するひとつの要素なのだろう。
 最近、エスプレッソをよく飲む。妻と娘がスペインとイタリアを訪ね、その土産に直火式のエスプレッソメーカーを買ってきた。弱い火の上に乗せ、その蒸気圧でコーヒーを淹れるタイプだ。
 朝、このメーカーで淹れたエスプレッソを飲む。ミルクも砂糖も入れない。かなり強い苦味が口のなかに広がる。
 一気に目が覚める感じだ。
 不思議なことだが、エスプレッソを飲むようになると、普通のコーヒーが物足りなくなってしまう。ブレンドやアメリカンが中途半端な味になってしまうのだ。コーヒーのチェーン店に入っても、ついエスプレッソを注文してしまう。日本では、エスプレッソのない店も多いが。
 エスプレッソの苦味は、頭をシャキッとさせてくれるが、「生き返った」とつい口にしてしまう苦味とは異質である。
 やはり春野菜や鮎の苦味である。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=タイからラオスへの旅。そして、世界の長距離列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅が続く。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 12:05│Comments(0)
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