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ナムジャイブログ

2017年09月04日

二日酔い

 二日酔いでこの原稿を書いている。昨夜知人と会った。居酒屋からカラオケというコース。日曜日の夜である。東京の都心はシャッターをおろす店は多いが、そのカラオケ店はひっそりと灯がついていた。おじいさんがひとりで切り盛る店だった。60歳は超えているように見える風貌である。こんな店があることが不思議だった。
「3時間3000円です。歌い放題、飲み放題です。飲み物はウーロンハイと緑茶ハイと水割り。ビールは別料金です」
 10人も入ればいっぱいになる店だった。
「いちばんきついとき、もう、考えてもしかたないって女房とこの店に来たんです。あの頃、電話が鳴って、話し終えるたびにトイレに駆け込んでました。下痢でね。水道局の人がやってきた。いつもは6000円ぐらいなのに、先月は1万円を超えているって。どこかで水漏れしてるんじゃないかって」
 彼が経営する会社が倒産した。
 長いつきあいになる。もう30年以上だろうか。旅行会社を経営していた。インターネットやLCCが登場する前に知り合っている。当時は、格安航空券といわれる航空券が全盛だった。団体用の航空券をバラ売りするスタイルだった。日系航空会社は「違法な航空券」というキャンペーンを張ったが、安い航空券を求める動きは止まらなかった。その中で彼の会社は急速にのびていった。いや、当時はまだ社長ではなかった気もする。さまざまな国籍の人たちに航空券を売る部署を任されていたように思う。
 その頃、僕のデビュー作である『12万円で世界を歩く』の連載がはじまった。航空券はいつも彼の会社から買った。月が変わるごとに航空券が安くなっていく時代だった。僕の連載は、そんな時代だから実現した。
 僕らはよく酒を飲んだ。西荻窪の店に行くことが多かった。小さな店だった。そこからカラオケに流れた。僕は自分からカラオケに行くタイプではないが、いつも彼の後をついていった。
 いろんなことがあった。航空券の世界も大きく変わった。個人がインターネットで買う時代になった。大きな流れでいえば、その動きに彼の会社も呑み込まれたことになる。
 彼は会社を失った。しかし、利用者には一切迷惑をかけなかった。だからニュースにはならなかった。彼らしい終わり方だった。
「8キロ痩せたよ。食べても、食べても出てっちゃうからな」
 倒産から約1ヵ月。やっとこんな冗談が出るようになった。
 いくら飲んでも酔えない酒というものはある。しかし酒精は澱のように溜まっていくから翌日になって応える。
 彼の40年は旅行業の成長という酔いのなかにあったのかもしれない。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。カナダの列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 18:26│Comments(0)
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