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ナムジャイブログ

2017年11月27日

不審な宿泊客

 夕方が怖い。
 いまホーチミンシティのデタム界隈の宿にこもっている。次にでる本の原稿を書かなくてはならず、自ら缶詰状態を選んだ。缶詰とは部屋にこもり、ひたすら原稿を書くことをいう。
 テーマは、ベトナムとカンボジア。ホーチミンシティでわからないことがあれば、すぐに見に行くことができる。そんなことを考えたが、原稿を書くつらさは変わらない。
 デタム界隈の宿は、路地に沿って連なっている。5~6階建ての建物が多い。僕の部屋は3階で、窓から顔を出さないと空が見えない。それでも夕方の気配はわかる。隣の宿や旅行会社、バーのネオンがともる。
 朝から机に向かっている。まだ11枚しか原稿が進んでいない。なんとか、1日に20枚以上を書かないと締め切りに間に合わない。あと9枚以上、寝るまでに書くことができるだろうか。苛だちが募る。
 10年ほど前から、本の原稿は手書きになってしまった。1枚というのは、400字詰めの原稿用紙1枚のことだ。本1冊にまとまるには250枚程度の原稿が必要になる。まだ先は長いのだ。
 缶詰状態になることはしばしばある。これを乗り切るコツは、規則正し生活を送ることだ。しっかり眠り、ちゃんと食事をする。そうしないと、本1冊を書きあげることはできない。
 朝から机に向かっているといっても、原稿がさくさくと進むわけではない。しばしば詰まり、ベッドに横になる。天井を見あげながら文章を考える。ひとつの言葉がみつかり机に戻るのだが、しっくりこない。再びベッドの上。こんなことを繰り返しながら、原稿は進んでいく。なんとも非効率な話だ。
 デタム界隈は、ホーチミンシティ一の歓楽街である。深夜までクラブから腹に響くような音楽が響いてくる。怪しげなマッサージやバーも多い。そんな世界にも縁がない。
 デタム界隈で机があり、窓があって明るい部屋を探した。いまいるホテルは、1泊25ドルといわれた。5泊するからという、フロントの30代の女性は23ドルまでなら……といって笑顔をつくった。
 部屋を見せてもらった。窓は大きいが、テーブルの手元が暗い。少し悩んでいると
「ライトがほしい?」
 とその女性が訊いてきた。頷くと、
「明日、買ってきます」
 そこまでいわれると決めざるをえない。
 翌朝、LEDのスタンドが部屋に届いた。それから3日間、部屋にこもっている。いったいなにをやっているのか……ホテルのスタッフは不審に思っているだろう。
 物書きの行動はいつも不審である。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=インドネシアの列車旅。ジャワ島編からスマトラ編へ。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載がはじまった。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 18:16│Comments(1)
この記事へのコメント
脳の栄養は糖分だそうです。
あまーいベトナムコーヒーを
飲んで頑張ってください!
ファイト一発です。

ベトナムとカンボジア
楽しみにしています。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2017年11月28日 16:49
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