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ナムジャイブログ

2018年06月11日

ホッとする寂しさ

 バンコクで、誕生日を迎えた。64歳である。
 毎年、誕生日はバンコクにいる。僕が監修を務める『歩くバンコク』というガイドの内容をチェックする時期なのだ。今年はトラブルがあり、編集作業にもかかわっている。誕生日を忘れてしまいそうになるほどの忙しさのなかにいる。
 タイ人の知人に、誕生日の話をすれば、大変になることはわかっている。レストランに何人もが集まり、ケーキがもち込まれロウソクに火がともる。タイ人の従業員たちも、この誕生パーティには妙に乗ってくる。
「どのタイミングで電気を消しましょか」
「音楽もセットできますが」
 しかし、タイの誕生パーティは内容が薄い。どこの国でも、そうなのかもしれないが、特別に祝う内容が乏しいのだ。ましてや僕は64歳という中途半端な年齢である。
 なんだか鬱陶しく、タイ人にも伝えなかった。ただ仕事に追われる日々。それもまた味気ないものだ。年相応の誕生日の祝い方はないのだろうか。
 最近、体力の衰えを実感する。
 今日もそうだった。BTSの駅に着いたのだが、激しいスコール。いつもはバイクタクシーに乗ってしまうが、こんなときは1台もいない。タクシーの空車も見つからない。
 たまには歩くか……と宿へのお道を進みはじめたのだが、途中で疲れてしまった。雨脚は強いが気温が高く、びっしょりと汗もかいていた。コンビニで水を買い、雨宿りを兼ねて、休業中の店の入り口に腰をおろした。
 水をぐびぐびと飲みながら、呟いてしまう。
「以前だったら、途中で休むなんてことはなかったけどな……」
 足の筋力が確実に落ちているのだろう。
 人はいつ、かつては平気で歩いていた距離を、「歩くことができない」と判断をくだすのだろうか。骨折をしたのならいざしらず、衰えは気がつかないうちに確実に進んでいくものなのだ。気だけは若くても、体がついてこない。その境界をいつ知るのだろうか。
「あるとき、ガクッときますよ」
 と70歳代の知人はいうが、そのあるときとは、振り返ってみればあのとき……ということではないかと思う。
 いや、いま、こうして雨宿りをしているときが、「あるとき」なのか……。
 雨脚が弱くなったのをしおに、また歩きはじめる。突然、携帯電話が鳴った。タイ人の知人からだった。
「誕生日、おめでとう」
「2日前だったけど」
「そうか。最近、もの忘れが多くて」
 互いに笑った。彼も60歳代である。彼の口から、パーティの話は出なかった。
 ホッとしたが、少し寂しかった。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=玄奘三蔵が辿ったシルクロードの旅。いまは中央アジア編を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。インドネシアの列車旅の連載中。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記


Posted by 下川裕治 at 19:58│Comments(0)
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