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ナムジャイブログ

2021年01月04日

高く心を悟りて俗に帰るべし

 昨年の大みそか。高尾山に登った。
 このブログで、高尾山に登った話を書くのはもう何回目だろうか。
 とくに思い入れがある山ではない。新型コロナウイルスの感染がなければ、違う山に登る。その程度のことだ。
 しかし山はいい。なにも考えず、登山道を踏みしめていく。道には落ち葉が積もり、そこにうっすら霜がついている。
 快晴だった。途中で振り返ると、東京の街が冬の日射しのなかでくっきりと見える。
 やはり悩んでいる。
 昨年の3月、タイから帰国して以来、僕のパスポートには、ひとつの出国スタンプも捺されていない。新型コロナウイルスは、海外をフィールドにする旅行作家の足をぴたりと止めてしまった。
 もう、海外に出てもいいだろう……そう思っていた。1月には飛行機に乗るつもりだったが、変異種の感染が広まり、日本人は規制なしで入国できたヨーロッパの国々も水際対策に走る可能性が出てきてしまった。
 東京の感染者数は一気に1000人を超え、少しは温度があがった空気はまた冷え込みつつある。
 登山道に沿った木々の間から射し込む日射しが眩しい。冬の太陽の光である。
 東京の冬は好きな季節だ。太陽の高度は低く、冬型の気圧配置のなかで空気は乾燥気味だ。低い位置からのびる日射しは、思いのほか暖かく、そのなかにはまどろむような空間がつくられていく。
 穏やかな東京の陽だまりで、やはり旅を考えてしまう。コロナ禍はそう簡単に収まりはしない。今年も何回か、感染者の増減が繰り返され、そのたびに、緊急事態宣言という話がもちあがってくるだろう。そのなかで、海外に出ることが難しい僕は右往左往していく気がする。
 そんな1年が薄ぼんやりと見えてくる。
 芭蕉の「奥の細道」を辿る旅を続けているから、芭蕉関連の本をよく読む。服部土芳がまとめた「三冊子」という本のなかに、こんな芭蕉の言葉がある。
「高く心を悟りて俗に帰るべし」
 旅を描く身として、芭蕉がいっていることが少しはわかる。旅の原稿というものは、重みと軽さの妙で構成されるものだとやっとわかるようになってきた。
 しかしコロナ禍のいまは、俗の軽みが減ってきている気がする。意味のない明るさは空まわりし、意味を加えていくと話が重くなってしまうのだ。
 コロナ禍の軽み。これを描かなくてはいけないと思うのだが、はたしてそれほどの力が僕にあるのか。
 陽だまりのなかで、また悩んでしまう。

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Posted by 下川裕治 at 12:55│Comments(1)
この記事へのコメント
意味性の少ないものをなんとなく集めて日々の時間を経過させていく。気づきにくいけど僕のようなオーディネリーな人間には必要なものと今の状況となってふと気付く。各国のビッグマック価格、寝台列車で丸1日揺られて2000円、そんな下川さんの著作に出てきそうな下世話な歓びで僕の日々の心の均衡は維持されていたんだなぁって思う。そんな日々が「そんな時代もあった」になってもらったら困る。
Posted by なかも at 2021年01月16日 14:02
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