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ナムジャイブログ

2021年03月22日

コロナで失った言葉

 東京の緊急事態宣言が終わった。なんともしっくりしない幕切れである。近々の感染者数は前の週より増えているという。常識で考えれば、終えられるときではない。もっともまた緊急事態宣言が出るかもしれないから、まあ、小休止と考えたほうがいいのか。
 緊急事態宣言は、その期間が長くなれば、当然、だらけてくる。別に感染防止の努力を怠っていないわけではないが、心の緊張はそう長くは維持できない。
 それは世界的な傾向だ。皆が慣れてしまったのだ。行政や政治家の発言には新鮮味がなくなる。このまま続けても、なんの効果もないことがわかっている。では、なにか決定的な予防策はあるのかといえば、なにもないから、ただワクチン接種の順番を待つしかいないことになる。
 新型コロナウイルスの感染が広まってからほぼ1年の間に、日本人は多くの言葉を失った。緊急事態宣言という言葉もそうだ。はじめて聞いたときは、緊張感をもって受け入れたが、いまでは、なにが緊急なのかもわからなくなってしまった。色褪せ、手垢に汚れてしまった。
 不要不急という言葉も輝きを失った。長引く感染拡大のなかで、不要不急はその許容範囲を広くしていった。律義に守ることが虚しく思え、なにかと口実をつけていくうちに、この言葉に反応する人も減っていってしまった。
 行政は刺激的な言葉を選んで注意を喚起しようとするのだが、言葉の力には、所詮、限界がある。長く、頻繁に使えば使うほど、訴求力を失っていく。そのうちに言葉の引き出しも空っぽになってしまった。
 言葉が平準化し、使い古され、錆びついていく……。東日本大震災のあとの、「元気をもらった」と同じような響きを、コロナ禍のなかで感じとっていた。
 しかし観光業界や飲食業界はそうもいっていられない。知り合いのラカイン人がはじめた「寿司令和」が、クラウドファンディングをはじめた。
https://readyfor.jp/projects/sushireiwa
 浅草に店がオープンしたのは3年前。半年ほどがすぎ、常連客もつき、なんとか……というときからはじまったコロナ禍だった。営業時間の短縮のなか、売りあげは大幅に減ったが、地元の人たちやアジア好きが支えていった。味を評価され、値段も手頃だったことに加え、「寿司令和」には、日本の寿司屋にない魅力があった。気楽なのだ。日本の寿司屋にあるような堅苦しさがなかった。やはり彼らはアジア人だった。
 なんとかコロナ禍は乗り切れるかもしれない──と思ったこともあったが、やはり緊急事態宣言の長さはつらい。この先の見通しもつかない。
 緊急事態宣言が終わっても、気分が晴れるわけではない。これから、まだ多くのものを失っていくのだろうか。



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Posted by 下川裕治 at 12:58│Comments(1)
この記事へのコメント
行ってみたいですねー、すしれいわ。ミャンマに一度行ったときの、ヤンゴンのおいしく気楽な寿司屋を思いだしました。
Posted by にっし at 2021年03月24日 14:29
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