2010年11月08日
それはアドベンチャーだ
車はグルジアとトルコの国境に向かって、未舗装の道を進んでいた。暗闇のなかに、車のライトの筋だけが見える。ひとつのピークを越えると、斜面にへばりつくようにいくつかの灯りが見えた。
あれが国境?
車は暗いゲートの前で停まった。ここがイミグレーションの入り口なのだろうか。しかし周囲に人はいない。車もない。トルコ側に抜ければ、車があるのかもしれない……。しかし、なかったら、僕らはどこへいったらいいのだろ。
不思議だった。いったいどこにいたのかわからないのだが、突然、1台のワゴン車が現れたのである。男がふたり乗っている。車が通るのを目にして、追いかけてきたのだろうか。
「トルコまで行く」
ひとりの男がいった。僕らの立場は弱かった。僕らもトルコに抜けたかった。しかしその足は、目の前のワゴン車1台しかない。値切ろうにも、ほかに選択肢がないのだ。トルコの鉄道駅があるカルスまで170キロ──。
120ドルで手を打った。
相場より高いことはわかっていたが、ほかに方法がなかった。ガソリンはポリタンクで買っていた。車を斜面に停めて傾けないと、ガソリンが入らない。これがカルスまで走るんだろうか……。
「星がきれいだ」
ワゴン車の窓から夜空を眺める。だいぶ気温が下がってきた。国境から一気に坂道を降り、高度が低くなってきたというのに、気温は下がる一方だった。僕らは内陸に向けて進んでいるということらしい。
「カルス」
運転手がはるか前方の灯りを指差していった。僕は時計を見た。夜の11時。今朝、トビリシの駅で、ヴァレ行きの列車は運休になったと聞いてから12時間しかたっていなかった。
やはり車の移動は抜群に早い。世界はもう、そういう時代になっているのだろうか。
翌朝、僕らはカルス駅の切符売り場にいた。イスタンブールまでの列車の切符を買うためだった。駅員が紙に書いて説明してくれる。
──スタンダードタイムで37時間30分。しかしときどき遅れて42時間かかることもある。
トルコに入国するとき、イミグレーションの係官が口にした言葉を思い出した。
「今日はどこまで?」
「カルスまで」
「それから?」
「イスタンブール」
「飛行機で?」
「いえ、列車で」
「それはアドベンチャーだ」
「アドベンチャー?」
その意味がわからないまま、列車は定刻の午後3時15分、カルス駅を出発した。
(カルス。2010/10/19)
あれが国境?
車は暗いゲートの前で停まった。ここがイミグレーションの入り口なのだろうか。しかし周囲に人はいない。車もない。トルコ側に抜ければ、車があるのかもしれない……。しかし、なかったら、僕らはどこへいったらいいのだろ。
不思議だった。いったいどこにいたのかわからないのだが、突然、1台のワゴン車が現れたのである。男がふたり乗っている。車が通るのを目にして、追いかけてきたのだろうか。
「トルコまで行く」
ひとりの男がいった。僕らの立場は弱かった。僕らもトルコに抜けたかった。しかしその足は、目の前のワゴン車1台しかない。値切ろうにも、ほかに選択肢がないのだ。トルコの鉄道駅があるカルスまで170キロ──。
120ドルで手を打った。
相場より高いことはわかっていたが、ほかに方法がなかった。ガソリンはポリタンクで買っていた。車を斜面に停めて傾けないと、ガソリンが入らない。これがカルスまで走るんだろうか……。
「星がきれいだ」
ワゴン車の窓から夜空を眺める。だいぶ気温が下がってきた。国境から一気に坂道を降り、高度が低くなってきたというのに、気温は下がる一方だった。僕らは内陸に向けて進んでいるということらしい。
「カルス」
運転手がはるか前方の灯りを指差していった。僕は時計を見た。夜の11時。今朝、トビリシの駅で、ヴァレ行きの列車は運休になったと聞いてから12時間しかたっていなかった。
やはり車の移動は抜群に早い。世界はもう、そういう時代になっているのだろうか。
翌朝、僕らはカルス駅の切符売り場にいた。イスタンブールまでの列車の切符を買うためだった。駅員が紙に書いて説明してくれる。
──スタンダードタイムで37時間30分。しかしときどき遅れて42時間かかることもある。
トルコに入国するとき、イミグレーションの係官が口にした言葉を思い出した。
「今日はどこまで?」
「カルスまで」
「それから?」
「イスタンブール」
「飛行機で?」
「いえ、列車で」
「それはアドベンチャーだ」
「アドベンチャー?」
その意味がわからないまま、列車は定刻の午後3時15分、カルス駅を出発した。
(カルス。2010/10/19)
Posted by 下川裕治 at 15:00│Comments(2)
この記事へのコメント
グルジアからトルコへの陸路国境越え。
カルスからすでにグルジア国境に向けて鉄道が建設さようとしているという内容を別のネットで見た。真偽はわからない。
ただし、カルスまでは鉄道が通っているのはすでに調べ済みだった。
トルコ東部の山間地に位置するカルス。
ようやくここまで到着したのは感慨ひとしおだったろう。
だが、トルコのイミグレの係官の「イスタンブールまでの列車の旅はアドベンチャーだ!!」という言葉は記憶に残りそうだ。
みなみやま自身は、まだトルコという国を歩いたことはない。
どんな列車の旅になるのか興味津々だ。ふと、以前乗ったベトナムの鉄道や中国の空調なしの硬座の旅を思い出した。
カルスからすでにグルジア国境に向けて鉄道が建設さようとしているという内容を別のネットで見た。真偽はわからない。
ただし、カルスまでは鉄道が通っているのはすでに調べ済みだった。
トルコ東部の山間地に位置するカルス。
ようやくここまで到着したのは感慨ひとしおだったろう。
だが、トルコのイミグレの係官の「イスタンブールまでの列車の旅はアドベンチャーだ!!」という言葉は記憶に残りそうだ。
みなみやま自身は、まだトルコという国を歩いたことはない。
どんな列車の旅になるのか興味津々だ。ふと、以前乗ったベトナムの鉄道や中国の空調なしの硬座の旅を思い出した。
Posted by みなみやま at 2010年11月08日 16:29
今日通勤電車の中で「地球の歩き方」を見ながら考えたこと。
まだ、トルコは知らない。
駅頭の旅行会社のパンフも時々見ている。
トルコはヨーロッパ旅行と比べると微妙に安い値段だ。世界遺産もある。
しかし、初めてのトルコ旅行の○秘プランが生まれた。
それは、イスタンブール・ハイダルパシャ駅からカルスまでの列車に乗るのだ。イスタンブールとアンカラを素通りして、カルスに向かう。
そのあと、ポソフをへてグルジアに入る。そして、グルジアから再び国境を越えホパへ入る。そしてトラブゾンで一息入れるというものだ。
これはクレージーだろうか?
まだ、トルコは知らない。
駅頭の旅行会社のパンフも時々見ている。
トルコはヨーロッパ旅行と比べると微妙に安い値段だ。世界遺産もある。
しかし、初めてのトルコ旅行の○秘プランが生まれた。
それは、イスタンブール・ハイダルパシャ駅からカルスまでの列車に乗るのだ。イスタンブールとアンカラを素通りして、カルスに向かう。
そのあと、ポソフをへてグルジアに入る。そして、グルジアから再び国境を越えホパへ入る。そしてトラブゾンで一息入れるというものだ。
これはクレージーだろうか?
Posted by みなみやま at 2010年11月12日 19:42
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