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ナムジャイブログ

2011年10月24日

温泉マークが消えていく

 韓国の田舎を数日ほど歩いてきた。スタートは釜山だった。いつものように、街なかで安い宿を探した。
 僕は韓国語を話すことも、読むこともできない。しかし、宿探しに苦労した記憶はない。温泉マークのある宿に入ればよかった。1泊2万ウオンから4万ウオン。日本円で1500円から3000円の宿が簡単にみつかった。
 しかし釜山の路上で僕は首を傾げていた。温泉マークは次々にみつかるのだが、泊まることができないのだ。1軒目と2軒目は廃業していた。3軒目はフロントに電話番号が掲げられていた。そこに連絡をしろという意味だ。4軒目は、近くにいたおじさんから、「いまは休業」といわれた。
 探した一帯がいけなかったのかもしれない。大通りを渡り、別のエリアで宿はみつかったが、頼りにしていた温泉マーク宿の先行きが不安になってしまった。
 温泉マーク宿は、韓国語でヨグァンという。旅館からきた言葉のように思う。フロントは、古いパチンコの両替所のような小さな窓である。その奥に老人がいる。敷きっぱなしの布団。そこで宿泊代を払うと……すべてが終わる。パスポートを提示する必要もないし、宿帳に記入することもない。
 老人の仕事は、空室の管理と宿代を受けとるだけである。部屋の掃除は通いのおばさんたちの仕事だ。住む家がなかったり、身寄りのない老人には都合のいい仕事だった。
 建物は古く、部屋はベッドひとつか床に布団を敷くオンドル部屋。設備がいいとはいえないが、一応、お湯の出るシャワーがある。
 かつては連れ込みの機能もあった気がするが、最近ではこぎれいなホテルができているから、そんな需要は減る一方だろう。フロントの老人の先は長くない。若い人で、この種の宿を引き継ぐ人もいないだろうから、1軒、また1軒と減ってきているのだろう。
 温泉マーク宿には、モーテルと看板を掲げた宿もある。ヨグァンに比べると、建物はもう少し立派なケースが多い。このモーテルは、日本流のモーテルもあるが、アメリカ式のモーテルもある。その辺はわかりづらい。連れ込み宿は曖昧宿ともいうが、韓国の安い宿は実に曖昧なのだ。もちろん普通のホテルもある。
 最近、ソウルで泊まるのは、ソウル駅前にある1軒の温泉マークである。仁川国際空港からソウル駅まで列車が繋がって以来、便利さも手伝って、ついこの宿に足が向いてしまう。もともと明洞が嫌いだった。日本人で埋まっているからだ。
 この宿は老人ではなく、中年の夫婦がフロントの奥の部屋で暮らしている。1泊2万5000ウオン。しかしこの宿の先行きも心許ない。
 僕が気に入る宿は、年を追って消えていく感じがする。旅人として年をとったということなのだろう。



Posted by 下川裕治 at 17:29│Comments(0)
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