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ナムジャイブログ

2012年09月10日

3冊の入眠書

 ひと足先の秋……というわけではないが、来週、ロシアのサハリンに行く。かつての樺太である。その資料を読んでいると、チェーホフと宮沢賢治がでてきた。文学好きにとって、サハリンはこのふたりの島らしい。
 以前、サハリンを訪ねたときは、ここが島であることを発見したといわれる間宮林蔵の本を読みながら向かった。今回は宮沢賢治とチェーホフか……。
 宮沢賢治は1923年の夏に、サハリンに向かっている。当時の落合、いまのドリンスクの先にあるスタロドゥプスコエという村が、『銀河鉄道の夜』の舞台になっているのだという。チェーホフは1890年にサハリンに渡っている。
 本棚を探す。古びた新潮文庫の『銀河鉄道の夜』がみつかった。
 一時、『銀河鉄道の夜』を入眠書にしていたときがある。
 入眠書とは、寝る前にベッドやふとんのなかで読む本のことをいう。それを読むと、なんとなく眠りに誘われる誘眠効果もある。心も軽くなり、なにかいい夢をみることができそうな本のことをいう。
 タイの路上で売られているプアングマーライにも誘眠効果があるという。ジャスミンの花房を糸でつなぎ、数珠のような形にしたものだ。お守りでもあるのだが、これをベッドサイドに置くと、寝苦しい夜に安らかな眠りを誘うのだという。
 僕の初代入眠書は『ファーブル昆虫記』だった。ファーブルが昆虫を観察し、生物のカラクリを発見していく。20代の頃、眠る前にしばしばこの本を読んでいた。日々、デスクに怒られながら記事を書いていた。面倒な人間関係にも悩んでいた。昆虫記を読んで、なにかが解消されるわけでもないし、解決の糸口がみつかるわけでもなかった。そんなことを期待もしていなかった。なんとか心地よく眠ることができれば……そのためにページを開いた。日々、疲れていたのだろう。1項も読まずに寝入ってしまうことも多かった。当時の悩みは、それほど深刻ではなかったのかもしれない。
 30代になって、『銀河鉄道の夜』を寝る前に読むようになった。ジョバンニとカンパネルラが夜の列車に乗る。
──二人は、停車場の前の、水晶細工のように見える銀杏の木に囲まれた、小さな広場に出ました。そこから幅の広いみちが、まっすぐに銀河の青光の中へ通っていました。
 幻想的な童話である。そこに流れる透明感のある空気は好きだったが、宮沢賢治は僕には難しすぎた。いや、童話として楽しむことができなかった。その意味を考えはじめて、目が冴えてきてしまうのだ。
 3代目が金子光晴の『マレー蘭印紀行』だった。戦前、妻をパリ行きの船に乗せ、ひとりマレー半島を歩く紀行だ。寝る前にこの文庫本を開く習慣はいまも続いている。何回か読むうちに、金子光晴という男が、普通のおじさんであることがわかってくる。それは年相応ということなのか。
 もう一度、『銀河鉄道の夜』を寝る前に開いてみようか。サハリンへの旅を前に、そんなことを考えている。

*次回はサハリンから原稿を送るつもりですが、インターネット事情がよくないため、掲載は少し遅れるかもしれません


Posted by 下川裕治 at 16:23│Comments(1)
この記事へのコメント
こんにちは。読者の朝倉といいます。下川さんと同様に長野県松本市で少年時代を過ごし、現在は千葉県に両親と在住しています。タイを含め、アジアには十数回行きました。
航空機は始めエジプト航空が安いのとマニラにトランジットできるので
それを使っておりましたが、タイムスケジュールが無理があるのを除けば正確なアメリカ系を使ってバンコクやシンガポール、香港に行くようになりました。サハリンには行ったことがありません。ですが金子光春氏の本は買って読み、バトパハまで足を運びました。旅の話を聞くと懐かしさがこみ上げてきます。
ブログや著作、期待しております。
Posted by 朝倉健太 at 2012年09月15日 21:33
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