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ナムジャイブログ

2016年06月27日

戦争の賞味期限

 久しぶりに飲み会があった。小さな居酒屋だった。テレビからはイギリスのEU離脱と参議院の話題が流れてくる。
「つまりは戦争の記憶が薄れてきたっていうことなんだろうな」
 ひとりがそういった。彼は沖縄から帰ってきたばかりだった。慰霊の日の取材だった。
 それはイギリスに限らず、欧米諸国の動きからも伝わってくる。右寄りの政党がどこも勢力を伸ばしている。
 EUの理念のひとつは、戦争を回避することである。ヨーロッパは2回の世界大戦を経験した。ひとつの国が戦争に走る要因は経済状況である。不景気、そして失業といった状況を打開するための戦争を市民は支持した。それは日本も同様だ。
 その反省のなかからEUは生まれた。しかしそれは、理念だった。その理念を維持するために、EU各国は犠牲を払わなくてはいけない。そのひとつが、イギリスで争点になった東欧諸国からの移民の受け入れだった。
 貧しい国の人々が豊かな国で働く機会をつくっていくことで、EU域内の富の平準化が進む。各国の経済格差が少なくなっていけば戦争は起きない……。しかしそれは理念だった。イギリスの人々が、自己犠牲を払ってEU内各国の平準化を受け入れるためには、「戦争は嫌だ」という意思が必要になる。その賞味期限がそろそろ切れてきているということなのだろうか。
 それはヨーロッパの多くの国で見られることだ。イギリスの場合は、そこに彼らの誇りが加わって「離脱」に傾いていった。
 人は理念だけでは生きられない。大戦が終わってから70年という年月を経て、人々はそう口にするようになってきた。
 沖縄の慰霊の日、テレビや新聞に登場する人々の多くは80歳を超えている。彼らの言葉は重いが、それが日本のなかでどれほど伝承されていくかと思うと心もとない。
「国民投票ってどうなんだろうね。ヨーロッパはこれから国民投票の動きが加速するでしょ」
「国民投票って、危険な手法だっていう話を読んだことがある」
「空気に流されすぎるから?」
「人じゃなくて、理念の選択だからね」
 海外に出向くことが多い知人は、「円高で海外旅行客が増える」という。しかし出版社に勤める知人は、「これで広告が減る」と顔をしかめる。
 一軒の小さな居酒屋の飲み会は、グローバルなのか、自己中心的なのかわからない話の展開になってお開きになった。
 イギリスの選択は、予想以上の波紋を世界に投げかけている。

■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=ユーラシア大陸最南端から北極圏の最北端駅への列車旅。そろそろ最終回です。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。いまだにタイ南部をうろうろしてます。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機


Posted by 下川裕治 at 12:43│Comments(1)
この記事へのコメント
EUの理念のひとつが戦争回避だったのですね。
はじめて知りました。

『理念』と『自己の損得』・・・
目先の損得を選んじゃうのが
国民というモノですよね
そういう決め事は国のリーダーがしっかり手綱を握らないと
楽な方へと流されてしまい結果取り返しのつかない事に・・・なるかもしれませんね。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2016年06月30日 00:42
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