2017年09月11日
こんなにも脆弱な……
先月に発売された『東南アジア全鉄道制覇の旅 タイ・ミャンマー迷走編』のトークイベントがあった。たくさんの人が集まってくれた。そのなかに懐かしい顔があった。バンコクでの知り合いである。
「バンコクを引き払って、日本に帰ってきたんです」
このところ、こんな話をよく聞く。アジアで頑張っていた人たちなのだが。
イベントが終わり、終電で羽田空港に向かった。朝6時発の香港行きというつらい飛行機に乗るためだった。チェックインは午前3時半にはじまった。
香港では知人に会った。
「ここ1年で、10人ぐらい日本に帰りました。デザイナーとかコーディネイターをやっていた人たちが多いかな。物価が高くなって、日本からのギャランティでは暮らすことができなくなってきたんです」
香港には1泊もせずにシンガポールに向かった。
「私ももう、シンガポールを出ないといけないかもしれません。政府がシンガポールで働く外国人は、TOEICでそうとう高い点をとることを条件にするみたいなんです」
ヨーロッパで働いていた日本人が次々に帰国した時期があった。ユーロ高の影響で日本からの収入では生活できなくなってしまったからだ。彼らは通訳、ライター、デザイナーやコーディネイターなど、基本的に会社に所属せずに働いていた人たちだ。そのうち何人かはアジアに移っていった。
そのアジアもしだいに生活が大変になってきている。各国の事情は違う。中国やシンガポールのように、働くための条件が厳しくなってきたところもある。しかしベースにあるのは、現地の生活レベルの上昇が日本をしのいでいることだろう。日本からもらうギャラでは暮らしが厳しくなってきている。
「じゃあ日本はいいかっていうと、厳しいんですよ。日本にいる知人に訊くと、皆、そろって帰ってくるなっていう。とくに私みたいな40代の女性は。逆に生活が少し苦しくてもシンガポールで働きたいって相談されますからね」
アジアでも苦しく、日本でも仕事がみつからない……。おそらくアジアと日本の経済格差が急速に縮まっているのだ。となれば滞在資格などの心配がない日本に……という流れが生まれてくる。
しかしアジアは離れづらい土地だ。アジアで生きる40代、50代の日本人は、仕事だけではない魅力をアジアに見出していた。外国で暮らすなんて……という20代の日本の若者とは違うのだ。
しかし、その世代が日本に傾いてきている。アジアと日本。その関係の脆弱さを目にすると、やはりつらい。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。カナダの列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
「バンコクを引き払って、日本に帰ってきたんです」
このところ、こんな話をよく聞く。アジアで頑張っていた人たちなのだが。
イベントが終わり、終電で羽田空港に向かった。朝6時発の香港行きというつらい飛行機に乗るためだった。チェックインは午前3時半にはじまった。
香港では知人に会った。
「ここ1年で、10人ぐらい日本に帰りました。デザイナーとかコーディネイターをやっていた人たちが多いかな。物価が高くなって、日本からのギャランティでは暮らすことができなくなってきたんです」
香港には1泊もせずにシンガポールに向かった。
「私ももう、シンガポールを出ないといけないかもしれません。政府がシンガポールで働く外国人は、TOEICでそうとう高い点をとることを条件にするみたいなんです」
ヨーロッパで働いていた日本人が次々に帰国した時期があった。ユーロ高の影響で日本からの収入では生活できなくなってしまったからだ。彼らは通訳、ライター、デザイナーやコーディネイターなど、基本的に会社に所属せずに働いていた人たちだ。そのうち何人かはアジアに移っていった。
そのアジアもしだいに生活が大変になってきている。各国の事情は違う。中国やシンガポールのように、働くための条件が厳しくなってきたところもある。しかしベースにあるのは、現地の生活レベルの上昇が日本をしのいでいることだろう。日本からもらうギャラでは暮らしが厳しくなってきている。
「じゃあ日本はいいかっていうと、厳しいんですよ。日本にいる知人に訊くと、皆、そろって帰ってくるなっていう。とくに私みたいな40代の女性は。逆に生活が少し苦しくてもシンガポールで働きたいって相談されますからね」
アジアでも苦しく、日本でも仕事がみつからない……。おそらくアジアと日本の経済格差が急速に縮まっているのだ。となれば滞在資格などの心配がない日本に……という流れが生まれてくる。
しかしアジアは離れづらい土地だ。アジアで生きる40代、50代の日本人は、仕事だけではない魅力をアジアに見出していた。外国で暮らすなんて……という20代の日本の若者とは違うのだ。
しかし、その世代が日本に傾いてきている。アジアと日本。その関係の脆弱さを目にすると、やはりつらい。
■このブログ以外の連載を紹介します。
○クリックディープ旅=世界の長距離列車の旅。カナダの列車旅を連載中。
○どこへと訊かれて=人々が通りすぎる世界の空港や駅物。
○東南アジア全鉄道走破の旅=苦戦を強いられている東南アジア「完乗」の旅。難関のミャンマーの列車旅。いまは番外編を連載。
○タビノート=LCCを軸にした世界の飛行機搭乗記
Posted by 下川裕治 at 12:51│Comments(1)
この記事へのコメント
僕の知り合いの夫婦も、ペナンから日本に戻ってきました。
帰国の流れは確かにあるように感じます。
僕も50台になったらタイで暮らしたいと考えていたのですが今は躊躇しています。
タイの物価の上昇を目の当たりにすると日本って意外と割安なんじゃないかな?
と思う事も増えてきたのです。
単純な価格はまだまだタイのほうが安いのですが
日本は安くていいものに溢れているように思えてならないのです。
帰国の流れは確かにあるように感じます。
僕も50台になったらタイで暮らしたいと考えていたのですが今は躊躇しています。
タイの物価の上昇を目の当たりにすると日本って意外と割安なんじゃないかな?
と思う事も増えてきたのです。
単純な価格はまだまだタイのほうが安いのですが
日本は安くていいものに溢れているように思えてならないのです。
Posted by たぬきまるだいすけ at 2017年09月12日 07:37
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