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ナムジャイブログ

2022年04月25日

戦争のイメージ

 連日、テレビのニュースは、ウクライナからの映像ばかりだ。妻はウクライナのニュースがはじまると、チャンネルを替えることが多い。
「あまりに悲惨で観るのがつらい」
 という。そこに映し出されるのは、まさに戦争である。
 コロナ禍で集まることが難しかった句会がようやく開かれた。メンバーは60代、70代の男性が多い。句にも戦争を題材にしたものがいくつかあった。
「ああいう戦争はもうないと思っていた」
 そういう人が多かった。
 世界の紛争はしばしば報じられる。しかし多くはひとつの国のなかの紛争だ。今回のようなあからさまな領土紛争は少ない。そして流れる映像も多くない。
 今回のウクライナで、膨大な映像がニュースになるのは、ロシアの侵攻に反対する国々の情報戦略の要素もある。ロシアがウクライナでいかにひどいことをしているかという事実を世界に伝えようとしている。
 しかしそこであまり報道されないのは、ウクライナにいるロシア系の人々の声だ。親ロシア派の兵士ではなく、普通の人々の声。ロシア側からの報道はあるのだが、その内容はあまりにプロパガンダ色が強く、とても信ずることができないからだ。
 日本ではCISと呼ばれていた独立国家共同体を構成する国のほとんどを訪ねている。独立国家共同体というのは、ソビエト連邦を構成していた国々のことだ。ソビエト連邦が崩壊して多くが独立した。ウズベキスタン、カザフスタン、ウクライナ、ショージア、アゼルバイジャンといった国々だ。
 ソビエト連邦崩壊時、「あなたたちは独立しなさい」と一方的に独立を強いられた国が多い。
「ロシア系の銀行に預けていた資金はすべてロシアのものになってしまった。私たちの独立はゼロスタートではなく、マイナススタートだったんです」
 CISの国々人は、独立当時の話になると、こういって唇を噛む。ソビエト連邦の時代、CISの国々を支配していたのはロシア人だった。崩壊時に多くはロシアに戻ったが、一部は留まった。しかし独立した国々は、それぞれの民族の国になった。ウズベキスタンはウズベク人の国になった。ロシア人は2%ほどだ。ウクライナもその流れの国だ。ウクライナ人が圧倒的に多く、ロシア人は17%ほど。少数民族なのだ。
 CISの国々の主要民族がロシア人を露骨に差別していたという話はあまり聞かない。しかし、少数民族はどうしても冷遇されてしまう。それはCISに限らず多くの国に共通している。
 ロシアのウクライナ侵攻は、そういう文脈のなかで起きた。ロシアはあからさまな領土紛争に持ち込んでしまった。悲惨な現状を起こしたロシアに弁解の余地はない。
 ウクライナで起きているのは、明らかな戦争である。
 そうなると露骨な情報戦になる。
 日本で得る情報は、反ロシアで染まり、ロシアではロシア賛美の内容になる。太平洋戦争ときの日本での報道に近いものがある。それが戦争なのだ。
 テレビのニュースから戦争がイメージされる。世界は何回かの大戦を経験し、その自戒のなかから戦後の構造ができたと、僕らは習った。しかし世界はなにも変わっていない。その実情が切ない。

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Posted by 下川裕治 at 13:11│Comments(0)
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