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ナムジャイブログ

2010年07月19日

動かない車両

 客車のなかで原稿を書いている。揺れる車内で、キーボードを打つのは大変では……と思われるかもしれない。しかしその心配は……と書きかけて少し切なくなってくる。
 前日の夕方から、この客車は停まったままなのだ。客車を牽引する気動車も切り離されてしまっている。動くことができないのだ。それもたった1台。ウスリースクの駅の隅っこに、ぽつんと置かれている。
 前日の夕方、ウラジオストク駅のホームで、中国のハルピン行き列車を待っていた。やって来たのは20両近い長い編成の列車だった。僕らが乗り込む車両は、気動車のすぐ後、つまり客車の先頭に連結されていた。他の車両は混み合っていたが、その車両はしんと静まり返っていた。
 この車両だけが国際列車だった。以前は乗客も多かったのかもしれない。しかしいまは1両だけの運行になっていた。定刻に発車した。ウラジオストクの入り組んだ湾に沿って列車は進んでいた。車内を歩くと、後続車両との間のドアは閉められていた。孤立した1両だったのだ。
 しばらくすると、女性の車掌が、僕らのコンパートメントにやってきた。一応、国際列車だから、英語で説明してくれる。
「この車両はウスリースクでひと晩停車します」
「はッ?」
 となりのコンパートメントにいるオランダ人の老人にも同じ説明をしているようだった。車掌が去った後、オランダ人がやってきた。彼も不安らしい。
「なぜひと晩停まるんです?」
「運行上の理由らしいんです」
「ウスリースクまで2時間ほどでしょ。だったら明日の朝、ウラジジオストクを出発すればいいでしょ」
「牽引する気動車がないってことですか」
「……」
「停車している間はトイレが使えないっていってました」
 僕らは車両から降り、線路を渡ってウスリースクの街に出た。ロシアの駅には改札がないから、こういうことも自由にできる。
 ウスリースクはそれなりの規模の街だが、店は極端に少ないシベリアの街である。食堂は駅舎の横に一軒あるだけだった。
「ビールは控えたほうがいいよな。夜、列車のトイレが使えないんだから」
 カメラマンと話を交わす。
「ロシアのホテルは高いでしょ。事前に1泊1万5000円もするお金を払ってバウチャーをもらわないとビザをくれない。それを思えばね。なにしろ、列車にただで泊まることができるんだから」
「そういうことじゃないとおもうんだけど」
 ロシア極東は夜の10時になっても明るい。行くところもなく、僕らは駅のトイレに寄って車両のねぐらに戻った。
 この車両はいつ動くのだろうか。
(ウスリースク。2010/7/6)


Posted by 下川裕治 at 12:00│Comments(1)
この記事へのコメント
やっほー!
初めまして~~。

いつも楽しみにしていまーす!
お仕事頑張ってくださいね~(笑)
Posted by nana at 2010年07月20日 10:58
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